敷金返還に影響する原状回復とは?ガイドラインを知ってトラブル回避

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賃貸住宅の退去では、原状回復と敷金返還にまつわるトラブルが最も多いとされています。合点がいかないポイントがあると、損をした気持ちになるはずです。しかし、原状回復について理解できないという悩みもよくわかります。
実際に原状回復をめぐるトラブルで、納得がいかないまま終わってしまったという経験をされた方もいるのではないでしょうか?今回は、貸し主と借り主が知っておきたい賃貸住宅の原状回復について。トラブルを防ぎたい方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。

  1. 原状回復の定義 
  2. 借り主の原状回復義務とは? 
  3. 敷金トラブルについて
  4. 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
  5. 遺品整理や孤独死で必要な原状回復
  6. 敷金返還や原状回復でよくある質問
  7. まとめ

どちらも負うべき責任の範囲を明確にしておくことで、思わぬトラブルを回避できるでしょう。


1.原状回復の定義 

賃貸住宅は、賃貸契約終了後に貸し主へ原状回復して明け渡すことになっています。原状回復の意味について、しばしば貸し主と借り主の間に溝が生まれることがあり、トラブルに発展してしまうのです。ここでは、原状回復の定義について考えていきたいと思います。

1-1.原状回復という言葉の意味

原状回復という言葉は、入居前の状態へ戻すことを意味しています。つまり、借りたときの状態に復帰して、貸し主へ明け渡すことです。原状復帰と原状回復は同じ意味ですが、貸し主・借り主・不動産会社との間で意味合いが異なるといけないため、原状回復という表現で統一しています。

1-2.一般的な原状回復について

一般的には、事情があって生じたものを、本来あるべき状態まで回復することを指しています。借り主が荷物を撤去した後、不注意や管理不行き届きのためにキズや汚損などが発生した箇所を修復し、貸し主へ返却することです。通常の範囲内での汚れや経年劣化などは含まれないこととされています。

1-3.不動産賃貸における原状回復とは? 

不動産賃貸契約では、借り主の使用で発生した建物の価値が減少した部分を考慮します。借り主の故意・過失・善管注意義務違反などで通常の範囲を超えた磨耗や損失を回復し、貸し主へ戻すことです。

1-4.現状回復との違い

原状回復と現状回復は、非常に似た言葉です。しかし、現状は現在の状態を示す言葉であり、不動産賃貸契約で使用する言葉ではありません。正しい表現は、原状回復となります。

2.借り主の原状回復義務とは? 

借り主に原状回復義務が生じるのは、明らかな損失や過失がある場合に限ります。経年劣化や自然磨耗によるものは含まれません。

2-1.原状回復義務の発生メカニズム

原状回復については、捉え方の相違が原因で貸し主と借り主がトラブルになり、後々までしこりとなって残ることが多いもの。しかし、本来は、借り主が負うべき原状回復義務は決まっています。
退去に伴う原状回復には、過失・損失・善管注意義務違反で損なわれた部分を借り主の責任で修繕し、自然磨耗や経年劣化は貸し主が負担するものとされているのです。原状回復が必要事例は、下記を参考にしてみてください。

  • 管理を怠ったために発生したカビや油汚れ
  • 家具の移動に伴う床のキズ
  • ペットの飼育で生じたキズや臭い
  • 釘(くぎ)やネジなどの大きな穴
  • タバコのヤニ

普段から注意していれば発生しない汚れや穴は、借り主の責任とみなされます。

2-2.敷金と原状回復について

原状回復にかかる費用は、敷金から引かれて借り主へ返還されます。しかし、原状回復の基準が貸し主と借り主の間で不明確なまま契約してしまい、敷金返還にまつわるトラブルに発展する事例が頻回に起こっているのです。

2-3.敷金の返還について

借り主は原状回復の義務を負っていますが、一方で敷金返還請求権も主張できます。

2-3-1.いつ返金される? 

賃貸住宅では、原状回復を終えてから精算して敷金の返金がなされるもの。退去後、1か月〜45日後までに返還されるのが一般的です。

2-3-2.過度の原状回復費用は負担しなくていい

敷金返還トラブルで増えているのは、預けていた敷金より上回る請求がされるという事例でしょう。原状回復では、過度の原状回復費用は借り主が支払う必要はありません。

2-4.借り主の義務はどこまで生じる? 

借り主は通常の使用範囲内であれば、ほとんどの敷金を返還してもらえます。退去時にきれいな状態へ戻すことはマナーとして必要です。
ハウスクリーニングをどちらが負担するかでもめることが多いのですが、本来は新たな入居者のために貸し主が行うべきもの。借り主が負う義務はありません。しかし、賃貸借契約書に特約として、ハウスクリーニング費用を借り主が負担すると記載してあるケースもあります。記載されている場合でも、必ずしも借り主が負担すべきと決められているわけではありません。通常の使用範囲を逸脱した汚れや損失にだけあてはまるものです。

2-5.貸し主が背負う義務とは? 

日常生活における自然磨耗や経年劣化による建物価値減少は、貸し主の負担となります。テレビや冷蔵庫を置いた後にできた汚れや黒ずみの清掃・クロスの日焼けによる張り替え・畳の表替えは、自然に発生したものと判断され、借り主が負担する必要はありません。
貸し主が鍵を紛失するなど過失がある場合は、鍵交換費用を負担する義務が生じます。しかし、次の入居者確保を目的に鍵交換を行うなら、貸し主が費用負担するのが一般的です。

3.敷金トラブルについて

原状回復を理由に敷金が返還されない・過剰請求されたなど、敷金トラブルは賃貸住宅につきものです。トラブルに巻き込まれないためにも、起こりやすいトラブルと対処法を知っておきましょう。

3-1.返還請求をする相手は貸し主

敷金が戻ってこないと不動産会社や管理会社に異議を唱(とな)える方がいます。交渉すべき相手は貸し主です。貸し主と直接話し合いをしない限り、話は前へ進みません。
話し合いで負担割合を決定できれば一番いいでしょう。しかし、スムーズに解決できない場合は、内容証明郵便を利用して主張するようにしてください。内容証明郵便には、敷金精算内訳を記載して適切な金額返還を求めるようにするといいでしょう。正しい金額の算出には、敷金鑑定士や弁護士に相談してみてください。

3-2.裁判まで発展する事例は少ない

敷金トラブルは増えている一方、法廷闘争まで発展するケースは少ないとされています。貸し主としても、裁判になって返還まで時間がかかり、返還すべき敷金に利息が加わる方が不利だと感じるのです。内容証明郵便や裁判所からの訴状を受け取り、態度が軟化する傾向があります。納得できない原状回復なら、借り主もしっかり主張するようにしましょう。

3-3.敷金トラブルが起きたときの相談窓口

敷金返還に納得できない場合、まず仲介してくれる不動産会社や管理会社に相談します。間に入ってもらい、意見を聞くようにしましょう。
話が進まないようなら、宅建協会や国民生活センターへ問い合わせてみてください。特に国民生活センターには数多くの敷金トラブル相談が集まっています。過去の事例からアドバイスを受けることができますので、気軽に相談してみましょう。

4.原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

賃貸借契約は、行政が介入して規制することなく、原則として自由とされています。しかし、敷金返還トラブル・原状回復についての負担割合が不明確であることから、国土交通省が指針としてガイドラインを1998年3月に公表しているので、退去前に参考にしてみてください。

4-1.ガイドラインがあるメリット

原状回復ガイドラインは、国土交通省による原状回復費用負担割合を記載しているもの。ガイドラインには法的拘束力はありませんが、貸し主と借り主の間で紛争が起こった場合に活用できる指針となっています。高額な請求をされても、ガイドラインに近づけて話し合いを決着することができるのです。

4-2.原状回復ガイドラインの概要

建物は、経年劣化で徐々に価値減少するもの。つまり、入居当時と同じ状態まで回復する必要はなく、経年劣化を考慮した修繕をすることとされています。また、借り主が修繕すべきなのは、社会通念を超えた使用を行った場合に限られるので、極端な原状回復費用は負担しなくてもいいのです。
国土交通省が公表している原状回復をめぐるトラブルとガイドラインでは、通常磨耗と経年劣化の程度を明確にして、貸し主の負担割合をわかりやすく明記してあります。退去時だけに適用するのではなく、入居時の契約にも生かす目的で公表されているものです。ガイドラインは、2011年に裁判事例や質問事項を盛り込んだ内容へ改訂を行っています。

5.遺品整理や孤独死で必要な原状回復

近年急増している孤独死は、賃貸住宅において深刻な問題です。一般的な原状回復とは異なり、孤独死ならではの対応が求められます。残された遺族は、孤独死発見後、速やかに貸し主へ原状回復して引き渡すことが必要です。

5-1.相続人がなすべき原状回復義務とは? 

貸し主が死亡した場合、貸し主に代わって相続人が原状回復の損害賠償義務を負うことになっています。孤独死では、室内の家財を撤去し、死臭や遺体から出たシミなどを完全に取り除き、消臭を行うことが義務です。貸し主は相続人に対し、死臭除去や消臭の責任を要求することができます。
しかし、孤独死では故人が負債を抱え、相続人が遺産放棄するケースも少なくありません。もし相続人が遺産放棄したなら、原状回復義務も発生しなくなります。貸し主は原状回復義務を請求する先を失い、トラブルに発展することも増えているのです。

5-2.特殊清掃など業者に依頼した方がいいもの

孤独死では、死後すぐに遺体発見されるとは限りません。数か月・数年と時間が経過した遺体は、腐敗が進行して室内に悪臭が充満し、ウジ・ハエなどが大量発生してしまいます。遺体から体液・血液・汚物が漏(も)れ出てシミとなり、自己流の清掃では十分にきれいな状態へ戻すことは不可能です。
孤独死の後処理を行う専門の特殊清掃に依頼し、次の入居者が入れる状態へ原状回復しなくてはいけません。いい加減な清掃で終わりにしてしまい、再び死臭が漂い始めるというトラブルはとても多いのです。孤独死の場合、床下の基盤まで体液などが染み込んでいることがあります。一般の清掃ではできない範囲まで丁寧に取り除き、死臭が蘇(よみがえ)ることがないようにしてもらえるのです。特殊清掃に依頼するなら、掃除が1回で済むメリットもあります。

5-3.遺品整理はどうすべきか? 

室内の残置物や荷物の撤去も、相続人が行わなければなりません。もし、孤独死の現場に足を踏み入れたくないという遺族の意向があるなら、特殊清掃に遺品整理まで依頼することも可能です。
金銭・通帳・有価証券・生命保険証書・価値のある品・思い入れのあるものなどを仕わけてから渡してもらえます。希望がある場合は、事前に申し出ておくといいでしょう。
残置物や不用品の処分は、供養後に処分してもらえます。

5-4.特殊清掃の料金はいくら? 

特殊清掃の料金は、部屋の広さで変わってきます。料金の目安は、下記のとおりです。

  • 1DK(作業員2名・59800円〜)
  • 2LDK(作業員4名・149800円〜)
  • 4LDK(作業員6名・259800円〜)

遺品整理を行う場合、上記の2倍かかると想定しておきましょう。しかし、使える家電製品や家具などがある場合、買い取りして料金から差し引いてもらえます。

5-5.特殊清掃・遺品整理業者選びのポイント

特殊清掃は技術が必要です。業者選びのポイントとして挙げられるのは、特殊清掃士の資格を有する業者であること。また、リフォーム業者と提携している業者だと、腐敗した床や壁の張り替えなども一括して依頼することが可能です。
借り主が亡くなった部屋では、すぐに退去して貸し主へ引き渡すよう求められます。なるべく早く対応してくれる、実績豊富な業者を選んでください。

6.敷金返還や原状回復でよくある質問

原状回復でよくある質問をまとめてみました。疑問解消に役立ててください。

6-1.原状回復工事はどのようなもの? 

アパートでは、借りた状態に戻す工事を行います。しかし、経年劣化や自然磨耗を考慮し、適切な範囲で修繕を行うものです。事務所などテナントでは、設置してある仕切りや壁を取り外し、入居時と同じ状態へ戻して引き渡す工事を行います。

6-2.原状回復のトラブルを避ける方法は? 

入居時に室内の写真を撮影しておき、退去後に貸し主に提示できるようにしておくと安心です。チェックリストを作成し、キズ・汚れ・不具合などを書き記しておきましょう。

6-3.クロスにキズがある場合は全面張り替えになる? 

万が一、借り主がクロスにキズを作ってしまい、張り替えが必要になっても、最低限の施工範囲で張り替えを行うだけで済みます。部屋全体の張り替えは必要ありません。経年劣化による張り替えが必要な場合は、貸し主の負担で原状回復工事を行います。

6-4.敷金の返還請求期限はいつまで? 

余分に取られてしまった敷金の返還請求は、過去5年間有効です。時間が過ぎてしまったから仕方ないと諦めず、専門家へ相談してみてください。すでに敷金返還を受けたものでも、5年間なら再請求することが可能です。
妥当な返金を受けることができるなら、もやもやしていた気持ちもすっきり晴れるでしょう。

6-5.原状回復とリフォームは違うもの? 

リフォームは、建物や各物件の価値を高めるために行う工事です。一方、原状回復工事は、自然磨耗や経年劣化を考慮して必要最低限の修繕を行います。工事内容は似た部分がありますが、価値をつけるかどうかという点で大きく異なるものです。

7.まとめ

いかがでしたか?賃貸借契約では、原状回復について貸し主と借り主の間で見解が異なるため、何かと争いが起こりがちです。借りる前に原状回復の意味を知り、室内を写真に記録してチェックリストを作っておくことで、トラブル回避が可能になります。借り主はあくまでも故意・過失・善管注意義務違反で生じたキズや汚れなどを修繕する義務を負うべきです。過剰に敷金を取られてしまわないよう、国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドラインなどを参考にして知識を持つようにしておきましょう。